菓匠館 福壽堂秀信  


コラム 季の手帖


なにわの三酔人和菓子問答 コラム 季の手帖トップへ戻る

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当社の和菓子のことを、三人の「酔人(粋人?)」が、好き勝手に大阪弁でしゃべってくれています。ご無礼の段は、何卒ご容赦の程を。
コシノアンコ餅月だんご郎あずき煮太郎


最中「秀丸(ひでまる)」のこと
煮太郎 最中は材料がシンプルなだけに菓子屋の技量が問われますねん。ウチには「秀丸」っていう銘の最中があります。丹波大納言小豆とザラメの砂糖で三日間もかけておいしい粒餡を炊きます。最中を得意とするは和菓子屋の誉れ、最中餡を炊くは職人の誉れ…なんて言いましてね。身の入れようもひとしおってもんですわ。皮が上あごにひっつきますか?もち米だけを丹念に焼いたものなんで、さくっとしてて層になりにくうて、ひっつきにくいはずですよ。 秀丸(ひでまる)
だんご郎 『拾遺和歌集』に「水の面に照る月浪をかぞふれば今宵ぞ秋の最中なりける」という源順(みなもとのしたごう)の歌があってな、江戸時代この歌にちなんで、満月を模した菓子に「最中」と銘がつけられたんや。最中は中秋の名月を指してたんやな。せやから本来最中いうたら真ん丸なんや。「秀丸」は真ん丸で古式ゆしいかたちやな。
アンコ 最中っておにぎりといっしょで、皮が…おにぎりの場合は海苔がね…パリっとしてるのがいいっていう人と、しめって馴染んでるのがいいっていう人がいるでしょ。ウチはやっぱりパリってしてるほうが好き。「秀丸」は中の求肥が固くならないうちに食べないとダメだけど、固くなってもウチは熱湯をかけてお善哉のようにして食べるのよ。これがまた、こおばしくて、おいしいんよー。


「花御堂」のこと
アンコ 「花御堂」っていうお菓子の名前を聞いたとき、花祭りのお堂のことと思ったの。四月八日はお釈迦様の誕生日でしょ。そのときに花を飾るのが花御堂だから。甘茶をかけたりして。でもこのお菓子は大阪の御堂筋に因んだものですって。ウチが子供の頃は花の御堂筋っていわれてたもんね。その御堂筋っていう名前も道路沿いの北御堂と南御堂っていうお寺に因んでだから、お釈迦様とはやっぱり関係あるのね。 花御堂
だんご郎 大阪銘菓って言うて始まったんやな。昔はよう歩いたもんや、御堂筋。もちろん二人でや。今の嫁さん?ちゃうちゃう、もっとええ人やがな。・・・そんなことはどうでもよろし。「花御堂」っていうお菓子は福壽堂さんではこれまで一番ぎょうさん作ってきはったそうや。誰が食べたかて味が馴染んでおいしいもんや。こし餡と餅…これは求肥って言うんやけどな…それが一緒になってやらかい煎餅にはさまれとる。和菓子の本道いうこっちゃな。
煮太郎 玉子煎餅がええあんばいにやわらかくなってますやろ。昔は蒸気をあてて一晩寝かしてましてん。今は餡を工夫して水気がじわっと煎餅にしみていくようになってます。餡は北海道十勝産の小豆。じょうずに炊けてまっせー。ぎょうさん作らなあかんかて、そら機械まかせでええっちゅうもんちゃいます。ええ材料ほど持ち味だそと思たら手のかかるもんです。そのへんがわてら職人のこだわりって言うもんですなあ。



「この味月」のこと
アンコ 「この味」って言いきる潔さよね。自信あるぞって感じ。「月」の方は、お菓子の形にちなんでですって。なにもお月さんは秋だけのものじゃないもんね。五月の月見もいいものよ。たそがれの御堂筋なんかでね、ちょいとふわっとした風に吹かれて。あっ「風」もいいな。「この味風」とか。だめ? じゃあ「この味緑」とか「この味紅」とかはどう? …無責任なこと言っててごめんなさ〜い。名前よりお菓子が肝心よね。 この味月
だんご郎 名前が先でもあかんことあらへんで。ええ名前につられてええお菓子ができたら、それも風流やんか。このお菓子は昔は「寿月」って言うてたんやけど、祝い事でなくても使えるようにって名前かえはったんや。そない言わはるお客さんがたくさんいてはったそうな。みなさんに愛されてきたんやなあ。作り手が思てる以上に、お客さんに好かれるっちゅうのは、そないあることやないで。
煮太郎 「寿月」を知ってはるとは素人やおまへんな(笑)。このお菓子は、うちの自慢の餡を、例えば最中なんかよりもっと気軽に…カジュアルっちゅうんかなあ、まあそんなふうに食べてもらいたい思て作ってます。ていうてもカステラ生地は餡に合うような独自の配合やし、小豆は十勝産の風味生かして甘さ軽めに炊いてるし、まあ長いことやってる商品ですから何べんも工夫改善してるんです。でも食べるときはそんなん関係なしに何気なく食べてくださいね。それで十分おいしいですから。


「古代司(こだいつかさ)」のこと
アンコ ありそうでないのよね、この味は。そう思わない? いわゆる一つの「焼き菓子」なんだけど、皮の具合といい餡の味といい、「えっ」て思ってしまうの。これって焼いてるのって感じ。だって焼いてたら普通は皮がもっとかたいんじゃない? まあ、かたいほうがいいっていう人もいるんでしょうけど、このしっとり感はだだごとじゃないわよ。でもそれにしても「こだいつかさ」って何よ? むずかしいじゃない。ぷんぷん。 古代司(こだいつかさ)
だんご郎 ワシの手元にむか〜しのしおりがあって、それをみると難波宮にちなんだお菓子やいうことがわかる。「司」は役所の意味やから、古代の役所で難波宮をさしてるんやな。難波宮いうたら七世紀に大阪…今の法円坂あたりにあった都や。大阪の菓子屋やから大阪の歴史風土に敬意を表してっちゅうとこやな。ワシなんか和菓子のええとこは、なんちゅうても土地土地に根付いてることやって思うなあ。
煮太郎 ちょっとむずかしい名前ですけど、それがお菓子におおてたらええと思てます。うちの自慢の焼き菓子は、皮も餡も自慢でっせー。まあ簡単にはできまへん。あの焼き加減なんか、その日の気温で調節したらなあかんぐらいです。餡は卵の黄身を混ぜて炊いてますねん。黄身餡いうても、そらいろいろあります。うちでも何種類か炊いてますけど、焼き菓子にぴったりあってる黄身餡を考えて、この味になってます。まあそれにしても玉子味は不滅ですなー(笑)。



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